王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
プロローグ

 ここは、小さな島国であるギールランド。
首都ロンザは中央よりやや北に位置し、島を縦断するように流れるヴァーン川の恩恵を受け、交易の中心地として栄えていた。

堀と塀で囲まれた王城と跳ね橋でつながるのは大聖堂を中心とした城下町。
そこに、小さな薬屋があった。

店の名前はグリーンリーフ。三年前に開業したこの店は、売っているものは風邪薬や頭痛薬、傷薬などどこにでも手に入るようなものだが、不思議とよく効く。加えて、看板娘の笑顔がさわやかなのも、街の人々から人気の理由のひとつだった。

笑顔は何よりも効く薬だ。心を軽くして、元気になろうと思わせてくれる。

そんなわけで、グリーンリーフは平民の間で広く親しまれており、最近では、噂を聞きつけた貴族に使える使用人達も買いに来るようになったのだ。


「エマ、ジュリア。これを持っていってちょうだい」

「はーい」


グリーンリーフの一室で、薬づくりに余念のない母親が、出来あがった薬の小瓶が入った箱を娘たちに渡した。
姉のエマは二十歳、妹のジュリアは十七歳。ともにダークブロンドの髪を持つ、可愛らしい娘たちだ。

ふたりは薬の入った箱を抱え上げ、店舗への扉を開く。

グリーンリーフは、城下町の一番東端の通り沿いにある。

店舗兼自宅である建物は、通りに面したほうがガラスを多用した店舗で、そこから扉を挟んで薬作りの工房、さらに奥が居住スペースと続いている。裏側には小規模の畑があり、そこで父親が、原料の一部となるハーブを育てているのだ。

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