拘束時間   〜 追憶の絆 〜

from......『怜斗 〜 dear my little prince. 〜』

「優斗〜、おばあちゃんにご挨拶は?」

「優斗、おばあちゃんにお花をあげて......」

息子の優斗が三歳になって物心がつき始めたのを機に、家族三人で夫の母が眠るカナダを訪れていた。

怜斗の母、シャーロットさんが眠るお墓は。生前彼女の最愛の恋人であった怜斗のお父さんが、いつでも会いに行けるようにと『personal advertise』のカナダ支社からほど近い場所にある霊園に構えたものだ。

実際の所は。怜斗は元より彼のお父さんですら、シャーロットさんの実家もイギリスのどこで生まれ育ったのかも分からない......。

恋人時代に怜斗のお父さんが何度シャーロットさんに尋ねても、決して教えてくれなかったそうだ。

いつも口癖のように、「私は家出娘だから......」と言っていたという ーー。

たとえ、怜斗のお母さんが身寄りのない女性だったとしても。怜斗のお父さんと出会い彼を産んでくれたからこそ、彼と私が出会えて息子の優斗へと命を受け継ぐ事ができたのだ。

両親と別れ、カナダで独り生きてきた怜斗の母シャーロットさんは。怜斗と私と、そして孫の優斗という家族を得た。もちろん、怜斗のお父さんだって。

怜斗のお父さんとお母さんは。確かに社会的には夫婦という形は取れなかったけれど、二人は社会的な繋がりよりもずっと強い絆で結ばれていた.......。


「沙綾、俺の出生を知った時。偽物の王子様だって思わなかった?」

お墓参りの帰り道、怜斗はセンチメンタルな面持ちで私に問いかけてきた。

「なに言ってるのっ、私にとって怜斗は世界でたった一人の王子様だよ......」

私は怜斗の少し陰のかかった表情を取り除きたくて、彼への溢れる想いを精一杯言葉に託した。

結婚して三年が経つけど、私から彼への気持ちはずっと色褪せずに息づいている。

それは幼い頃に。大切な人が傍に居てくれることが、どんなに素晴らしい奇跡なのかを初恋の男(ひと)が教えてくれたから。

だから、素直にいつまでも。愛する男(ひと)へ伝えたい ーー。

「怜斗、愛してる」

< 133 / 136 >

この作品をシェア

pagetop