あなただけの特別なスイーツに愛を込めて
あなただけの特別なスイーツに愛を込めて
 パティシエ見習いの私は、小さなスイーツ屋で働いていて、よくレジ対応を任される。

 そして、ある男の人に恋をしている。私より十歳位は年上だけど、「大人の男性」という言葉がぴったりだ。色気があって、しゃべるときは少しだけハスキーな声で、手は大きくて少しごつごつしていて。それなのに、女性客ばかりのスイーツ屋にやって来て、毎日誰かのためにスイーツを2つ買って、プレゼント包装を頼む優しい人。

 今日はバレンタイン。お店は予約も含めて一年で一番忙しくなる。数日前から残業も増える。それでも、私はいつか自分のお店を持つために、頑張って働いている。

 今年は、あの人のために、店長に一個だけお願いをしていた。
 昨日の事だ。残業をしながら、
「チョコレート、一個だけ、ここで作らせていただけませんか」
 と店長にお願いした。店長はニヤニヤして私に誰にあげるのかを聞いてきたが、私が恥ずかしそうに言葉を濁すと、
「いいよ。練習がてら、作ってみな。材料もおまけしてやる」
 と言って、許可してくれた。私は、あの人のために、オリジナルのチョコレートを作った。ベリー入りの甘いチョコレート。

 受け取ってくれないかもしれないけれど、でも、せめて、気持ちだけは伝わると良いな。

 ついにあの人が、混み合う店内をかき分けて、店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
 緊張して思わず声が震えた。
「モンブランを一つ、自宅用で」
「えっ」
 あの人が自分用にスイーツを買うのが初めてだった。思わず、モンブランを包装する手が震えた。バレンタインなのに、何かあったのかな。声も表情も投げやりだし、何かあったのかもしれない。

 でも私は、何があってもチョコレートを渡すと決めていた。モンブランを包装した後、自分が作ったチョコレートを一緒に、あの人の前に差し出した。
「あの、これ、私の気持ちです」
 あの人は、目を丸くして、チョコレートの包装を見た。そして、不機嫌そうな顔が、優しい笑顔に代わり、「ありがとう」と微笑んでくれた。嬉しかった。

 それからというものの、あの人は変わらず毎日、店に来てくれる。
 でも、買うスイーツは一つだけになった。
 そして、私はあの人を「冬真さん」と呼べる位、話すようになった。

 私は冬真さんの来店を楽しみに、今日も仕事に勤しんでいる。
 いつか、もっと仲良くなれることを夢見て。
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