副社長の一目惚れフィアンセ
何気なく窓の外を見て、ある男の人に目が止まった。

「…あれ?」

「どうしたんだよ」

「…ううん…」

通りを歩いている背の高い彼の横顔…

メガネはしていないけど、なんとなく黒岩さんに似ている気がする。

女性連れのようで、男性の奥で長い髪が時折揺れて見え隠れする。

もちろん、黒岩さんに恋人がいたっておかしくはないのだ。

プライベートで誰と一緒にいても、それは関係ないこと。

だけど、ラフな歩き方…悪い言い方をするとガラの悪い歩き方の彼は、黒岩さんじゃないとすぐに確信できた。

私の視線を追い続けていたらしい瀬名がガタンっと立ち上がった。

「あれが副社長か?早速浮気か!?」

「ち、違うっ落ち着いてっ」

戦闘態勢に入りかけている瀬名をなんとかなだめて説明した。

「なんだ、人違いか。びっくりさせんなよ」

はた迷惑と言わんばかりの顔をしているけど、勝手に早とちりしたのは瀬名のほうだ。

ニセモノの黒岩さんは、ホテル街のある細い道に、女性と腕を組んだまま消えていった。


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