Room sharE
Room sherE Side T 『嘘つきな彼女』








「冬華――――――っっつ!!!」










はじめて彼女の名前を呼んだ。


彼女のことは出会う前からよぉく知っていた。もちろん、名前も。


城戸 冬華がマンションの40階から飛び降りるのを、止められなかった。


鈍い音が階下で聞こえて、それが人が落ちた音だと気づくのに―――数秒を要した。


慌てて手摺に両手をついて下を覗き込むと、40階下の花壇の脇に、倒れた小さな小さな人影が見えた。ここから見ると、まるで壊れた人形のように、無惨に転がっている。


「冬華……!」


慌てて身を翻し、着の身着のまま部屋を飛び出た。靴も履かず、裸足で。途中、隣で張り込み捜査をしていた俺のバディーが訝しげに顔を出したが、


「た………課長……っ!?」一瞬俺の本名を出そうとしたが、そこはプロ。慌てて言葉を飲み込み、役職名で名前を呼ばれて、俺の後を追ってくる。


「どうしたんですか!そんな格好で!城戸冬華は!?」


俺はその問いかけに答えることはなかった。ただ逸る気持ちを必死に押さえながら、エレベーターの“降”パネルを連打し続け、


ここ一週間、何度も彼女と乗ったエレベーターに飛び乗り、階下に降りると、俺は彼女が落ちたであろう場所まで走って行った。


俺がこのマンションに“帰って”くるときに降っていた雪は止んでいたが、気温は下がっていて厳しい冷え込みの中、足裏に冷たい雪の感触だけを覚える。


彼女が“落ちた”ことを、聞きつけたのか住人たちが興味本位で集まってきていて、野次馬の群れが出来ていた。


「退け!」


俺は怒鳴り声を挙げると、その人ごみの中乱暴に分け入り、


「課長!いけません!検分が……」と俺の相棒は何やらごちゃごちゃと言っていたが……きっとこの短い間で何があったのかあらかた予想はしていたに違いない、そいつの手も乱暴に払いのけ前に進み出ると









倒れた冬華を見て、呆然となった。







< 67 / 85 >

この作品をシェア

pagetop