Room sharE
城戸 冬華の長い手足はあり得ない方向にねじ曲がっていて、落ちた衝撃で打ち付けたであろう胸や頭からまるで美しい薔薇の花を思わせるような鮮やかな血液が雪の上を染めていた。
彼女の長い睫が縁どる形の良い大きなアーモンド形の目はしっかりと開いていて、その黒曜石のような瞳が俺を捉えている。彼女の血のように赤い唇からは、同じ色をした………血の“よう”ではなく、それは紛れもない血が頬や顎を伝い、地面に流れ込んでいる。恐らく落ちた衝撃で肺を強打したのだろう。
息絶えていることは一目瞭然だった。
彼女の瞳は――――もう俺を映すことはない。彼女の唇は、俺のことを呼ぶこともない。
けれどそれでも彼女は―――
美しかった。
職業柄、様々な遺体を見てきたが、彼女ほど美しい遺体を見たことがない。
それはまるで精巧な造りのビスクドールを―――見ているようだった。
でも彼女は人形じゃない。俺に人形を愛でるそんな変な趣味はない。
「冬華……」
俺は彼女の名前を呼んだ。彼女の元に膝を付きがくりと項垂れる。
彼女は生きていたらきっとこう言うであろう。
『呼び捨てするなんて、年下のくせに生意気よ?』と。勝気に微笑んで、色っぽく笑って、そして―――あの妖しくも色っぽい視線で、俺を離さないだろう。
今もまだ温かい彼女の頬をそっと、震える手で包み込み
「ごめんな冬華
ごめんな――――……」
そう呟いていたらしい。
“らしい”と言うのは俺はこのときの記憶が曖昧だったからだ。このときのことは後に相棒から聞かされることになる。
ただあのときは『ごめんな』を繰り返し、そしてひたすら彼女の名前を呟いていたようだ、俺は―――
彼女の頬に一粒の雫が滴り落ち、空から降ってきた雨のせいかと思ったが、それは俺の涙だったんだ。
死なせるつもりはなかった。
俺は彼女がきちんと罪を償って、刑務所から出てくるまで待つつもりだった。
どれだけ時間が掛かろうと、永遠に――――
彼女を―――
愛していたのだ。
雪の絨毯の上に横たわった彼女は、名前の通り真冬に咲く美しい華そのものだ。
白い雪の上を彼女の赤い朱い――――紅い血がまるで、薔薇の花びらのように思えた。
或は彼女が最後の最期に食べられなかったショートケーキのような……
「 ご め ん な 」