次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい


アシュヴィ王に続く形で、回廊から居城部へと場所を移動したあと、セドマとリリアは慌ただしくやって来た召使いたちの案内で、客室へと通されることになった。


「本当に何もかも素敵ね」


リリアは窓の向こうに広がる庭園を見つめながらうっとりとため息を吐く。

今いる部屋は二階に位置するため、広大な庭園を上から見ることができた。

低木の緑と共に赤や黄、紫など色とりどりの花が咲き乱れている様は見事で、そして日が暮れ始めた今、夕日の橙色を含んだ噴水の水がキラキラと流れ落ちていく光景も格別である。


「ジャンベル城の庭園は見事だが、奥に行けば行くほど複雑に入り組んでもいる。散策を許されても、迷子にだけはならぬよう気をつけろ。迷惑がかかるからな」


背もたれのあるふかふかな長椅子にゆったりと腰掛けて、部屋にあった本へと目を落としたまま、セドマはなんてことない様子でリリアに忠告する。

この部屋に入ってからそれほど時間は経っていない。

リリアは部屋の中にある豪華な調度品や、窓の向こうに広がる庭園を眺めたりなど、興奮はまだまだ冷めそうにないというのに、セドマは一度ちらりと窓の外を見て「変わらないな」と呟いただけで、そのあとはこの時間を潰すかのように静かに本を読んでいる。


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