イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
王子、現る


 混雑する駅の構内を抜け、高層ビルの間をしばらく行くと、突然開けた空間にこんもりと茂る緑が現れる。

 私は足を止め、木々の香りを含んだ三月の爽やかな空気を思いきり吸い込んだ。

「父さんまだかな」

 大鳥居の前に立ち、今日の約束の相手である父の姿を探してみるけれど、それらしき姿は見当たらない。

 先に境内に入ることにして、大鳥居をくぐり参道を歩く。微かに花の香りを感じて顔を上げると、薄ピンク色のかたまりが私の視界を塞いだ。


 少し霞んだ青空の下、春の暖かな風が私の髪を優しく揺らす。

 風に飛んだ一片の花びらがひらひらと空中を舞い、私の手のひらに迷い込んだ。

「……母さん、今年も来たよ」

 その花びらをそっと握り、私は小さく呟いた。

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