目覚めたら、社長と結婚してました
大変です、目覚めたら名字が変わっていました
 頭が割れるような痛みでふと目を覚ますと見慣れない真っ白な天井が目に入った。

「気がつかれました? 気分はどうです?」

 声をかけられ、うっすらと目を向けると自分の母親よりもやや若い看護師さんが心配そうにこちらを見下ろしていた。状況が理解できないまま、とりあえずの疑問を口にする。

「……あの、ここ」

 思ったよりも掠れた声になったが、意味は通じたらしい。彼女は困ったように笑った。

「医療センターですよ。覚えていますか? 歩道橋の階段から落ちて、救急で運ばれてきたんです」

「え……」

 私は顔を引きつらせた。どうしよう。全然覚えていない。でも言われてみれば全身が打ちつけたように痛む。

「幸い、外因的な大きな怪我は見られませんでしたが、頭を打っているとのことで検査をしたんです」

 この頭の痛みはそういうことらしい。それにしても、階段から足を滑らせて運ばれるなんて……。恥ずかしいにもほどがある! こんなことが会社にバレたら……。

 そこで私は急に冷静になり、仕事のことが気になりだした。今日が何曜日なのかも、日付も思い出せない。頭を打ったからか、混乱している。

 看護師さんは「先生を呼んできますね」と言ってさっさと部屋を後にしたので、病室には私ひとりになった。

 天井を睨むようにして見つめてから、深呼吸する。

 えーっと、落ち着け。私は平松柚花(ひらまつゆずか)、二十五歳。百年以上続く世界的にも有名な天宮コーポレーションのグループ会社のひとつ、大手IT企業『天宮ソリューションズLtd』に勤めている。
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