目覚めたら、社長と結婚してました
困惑です、どこまで私のことを知っていますか
 翌日、目を覚ましてからは退院の準備でバタバタと慌ただしかった。細々とした手続きや片付けなどは伯母に任せ、お世話になった医師や看護師さんたちに挨拶し、病院を後にする。

 次に病院に来るのは経過観察のため二週間後だ。

 空調を調節をされていた病院を出れば、想像以上の寒さに身震いする。伯母の運転する車に乗り込み、流れる景色を目に映しながら私はじみじみと呟いた。

「驚いた。冬だね」

「なに言ってるの。今年ももう少しで終わりよ」

 道行く人はみんなコートやダウンなどの着込み、町はクリスマスムード一色だった。かくいう私もピンクのチェスターコートを羽織っている。

 病院に運ばれたときに着ていたらしい。去年下ろしたものでクリーニングに出して片付けたと思ったら、再び身にまとっているとはやはり感覚が妙だ。

『梅雨は通勤が面倒だし嫌だな』とか『このスプリングコートは買って正解だったな』とか思っていたのがつい昨日のことのような私にとって、頭も体も“今”にまだついていかない。

 そこで私は思い立ち、運転する伯母に話しかけた。

「伯母さん。私の家に寄ってくれる?」

「家ってマンションのこと?」

「え!?」

 当然のように聞き返され逆に私が面食らう。私の反応を不思議に思ったのか、信号で車が停まったので伯母がこちらに顔を向けてきた。
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