目覚めたら、社長と結婚してました
仮定です、体は覚えているかもしれませんから
 柔らかいベッドの感触を受け、ゆっくりと目を開ける。なにかが乗せられているのを感じて身動ぎしたところで、自分の置かれた状況に私は叫びそうになった。

 な、なん……。

 寝起きで混乱する頭を必死で落ち着かせる。なぜか私は怜二さんに抱きしめられる形で慣れないベッドに横になっていた。

 と、とりあえず落ち着こう。どうして、こうなったんだっけ? たしか昨日ソファで彼と話していて……。

 あれこれ思い出し、私は記憶と共に羞恥心という感情も爆発させそうになった。恥ずかしさのあまり、がばりと身を起こすと回されていた怜二さんの腕がずるりと重力に従って落ちる。

 その衝撃からか彼は眉をひそめて、短く唸ってから目を開けた。私はおそるおそる声をかける。

「お、おはようございます」

「……起きたか」

 低い声で睨まれながら返される。いつもなら縮み上がるところだが、これは寝起き特有のもので怒っているわけではないというのはわかる。

 彼の格好がパジャマで、さらに髪も下ろされているからか、あまり凄みは感じられない。怜二さんは顔に手をやり、大きく息を吐いて身を起こした。

「あの、これは……」

「柚花が寝たからベッドまで運んでやったんだ。そうしたらお前が人のことを離さないから」

 私が枕にしていたせいで痺れたのだろう。しかめっ面で右腕をほぐしている。

「すみません、でした」

 ベッドの上で正座をする勢いで体を丸めた。申し訳なさと恥ずかしさで涙が滲みそうだ。
< 94 / 182 >

この作品をシェア

pagetop