彼の隣で乾杯を
友、帰る

仕組まれた再会


高橋が長期出張に出た初日。
昼休みに高橋から短いメールが届いた。

「康史さんがこっちで谷口を捕まえた。二人はもう大丈夫だ」

やっぱり。
やっぱり早希は神田部長に守られてTHコーポレーションにいた。神田部長は二人が再会する時期を慎重に計っていたのだろう。本当に食えないタヌキだ。

私の方はこのタイミングで想いを通じ合わせたばかりの彼氏と遠距離恋愛みたいな状態にさせられて、ちょっとだけタヌキを恨んでいる。
ただ、親友を大切に保護してくれたことに対しては感謝でしかない。

早希、どうか素直になって副社長と向き合って。
後悔するような選択をしないで欲しいとずっと願っていた。
高橋のメールには「二人はもう大丈夫そうだ」とあった。
そうであって欲しいと思う。早希には幸せをつかんで欲しい。


「佐本さん、スマホ握りしめて笑ってるなんて余程いい連絡があったんですか?」
アシスタントの若い女子社員の菊田ちゃんが興味深げに聞いてくる。

「ええ、ちょっとプライベートでね」
フフッと笑うと菊田ちゃんの遠慮がちの黒い瞳が大きくなった。

「佐本さんのプライベート発言、初めて聞きましたっ」

「あら、そうだった?でもそんなに驚くこと?」

「驚きますよ!佐本さんって仕事以外の顔が全くと言っていいほど何も見えませんから」

「私だって仕事ばっかりしてるわけじゃないんだけど、そう見えるのかしら?」

「あの」と菊田ちゃんは上目遣いで言いにくそうに口を開いた。

「確かに佐本さんと男性との噂はたくさん聞きます。でも、今回佐本さんのアシスタントになっていろんな女子社員の言ってる事って全然信ぴょう性がないなって思ってたんです」
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