もう一度、愛してくれないか
Epilogue

山中湖にあるあさひ証券の保養所に、今年の東京エリアに配属予定の新入社員が集められていた。
新人研修の総仕上げである「合宿」のためだ。

「……研修って座学じゃねえのか?」

上條 大地は怪訝な顔をしていた。
学生時代サッカー部だった彼は、アンブロのTシャツとジャージを着ていた。

「だったら、こんなスポーティなウェアの着用を指定しないよね?」

水島 慶人は嫌な予感がしていた。
学生時代テニス部だった彼は、プリンスのTシャツとジャージを着ていた。


「ちょっとあんた、それって、あ◯が着てたヤツじゃん?イキがってんじゃないわよっ」

ツヤッツヤの長い黒髪が自慢の吉川(よしかわ)が、身体(からだ)にフィットしたプーマのジャージを着ていた女子社員を牽制した。
LAスタイルを採り入れたことで、街着にできるほどオシャレになったプーマのジャージは、アーティストやタレントなど有名人たちの御用達である。

「あんたこそ『アディダスだけど、あたしのはちょっと違うのよ』ってイキがってんじゃね?」

くるんくるんの栗色の巻き髪が自慢の中西(なかにし)が、アディダス by ステラ・マッカートニーのジャージを着ていた女子社員に反撃した。
元ビートルズのポール・マッカートニーの娘を起用してデザインされた、NYスタイルのヨガにインスパイアされたアディダスのラインだ。

そのとき、身長一六五センチくらいの女子社員が、二人の側を通り過ぎた。

篠原 珠紀は、体型が整っていないと、とんでもなくダサく見えるというシンプルなチャコットのジャージを、姿勢良くすらりとした肢体で見事に着こなしていた。幼少の頃はバレエを習い、学生時代は新体操部だった。

吉川も中西も、なぜか急に黙った。

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