伯爵令妹の恋は憂鬱
1.もたらされた訃報

クレムラート伯爵の妹・マルティナは美しい令嬢だった。

胸までの豊かなダークブロンド、透けるような白い肌、丸顔にクルミのようにくりっとした瞳。小さなおちょぼ口からは美しいソプラノが奏でられる。内向的だが歌が好きで、彼女の歌声は聞いているものの心を癒す。

社交界に出れば、その年の耳目を集めることは間違いないだろうが、そろそろ社交界デビューをと言われる十六歳になっても、マルティナには一向にその手の話は出てこなかった。

それは、出生に秘密があるからだ。

フリードはマルティナのことを、『体が弱く、別荘地で療養させていた妹だ』と説明しているが、昔から伯爵家と付き合いのある貴族の中には、三年前に突然現れたフリードの妹の存在に疑問を抱いている人間も少なくない。

まして、年齢を計算すれば、前クレムラート当主・ゴードンとその妻ジモーネが離婚してから生まれた子どもだというのはわかる。本当にゴードンの子であるかどうかは怪しいものだ。

それでも、誰も声を大にして非難しないのは、フリード自身がマルティナの存在を認めていることと、マルティナが表に出てこようとしないからだ。

実際、マルティナは前伯爵の弟アルベルトと、ゴードンの妻・ジモーネの間にできた不義の子だ。そのいざこざでジモーネとゴードンが離婚してから生まれた子なので、厳密にはクレムラート伯爵家の子どもでもない。
フリードはそれらをすべて知っていて、マルティナを妹と認め、引き取ったのだ。

マルティナは兄に感謝している。両親を亡くした彼女にとって、兄夫婦は親代わりのようなものだ。

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