恋をしようよ
「あのリンドウの花、誰が生けたんだ?」

翌日の朝は、珍しく家族三人そろって朝食をとっていると、家元が誰に聞くとなくそう呟いた。


「あの床の間のやつなら、俺のお弟子さんのだよ。」


それだけ答えると、黙々と母さんの用意していたご飯と味噌汁を交互に口に運ぶ。
久しぶりにやったからか、昨日はよく眠れたななんて思いながら。

本当なら、生けた花はお弟子さんたちが持ち帰るものなんだが、ナツのうちには丁度いい花器がないと言うから、せっかく上手に生けてくれたので勝手に俺が飾って置いたんだ。


「お前の弟子なら、まだ初級コースか?あれだけ生けれるなら、もう上級でもいいだろう。」

やっぱり親父も気付いたんだな。

姉ちゃんがもう家元を継がないとハッキリして来たので、後継者は俺になるって雰囲気にはなってはいるものの、どうしても俺には継がせたくない親父は、誰か才能のある嫁は居ないものかといつもアンテナを張り巡らせているのかもしれない。

俺の嫁にきてくれなかったとしても、厳密には世襲制ではないのだから、才能のある誰かがついでもいいわけだからな。



「あの子は昨日はじめたばかりだから、まだ早いんじゃないですか。まあ経験者ではありますけど。
それに、初級コースでちゃんと習ってるわけじゃないですし。」


やんわりとそう断ると、親父はがっかりしたように「またお前の気まぐれで連れてきた子か。」なんて嫌味まで言われた。



今までも、ナンパついでにお花をやってみたいって女の子を、何人か連れてきた事があったれど、どの子も長続きはしなかったなそういえば。


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