珈琲プリンスと苦い恋の始まり
古民家珈琲店『White moon』
そこは築百年近い古民家だと聞いた。
開けた庭からは海が一望でき、水平線の遥か上には青空が限りなく広がっている…と。


「店の名前は『White moon』だ」


(株)白川珈琲店の社長を務める父は、次の赴任先について、そう俺に説明した。

出店名に『White』を付けるのは、白川珈琲店の持ち物であると本社始め、他のグループ企業にも知らしめる為だ。


「白い月か」


俺は渡された資料の表題を眺めて呟く。
「そうだ」と父は頷き、名付けの理由について語った。


「立地条件を確認しに行った時に空に浮かんでたんだ」


霞むように青空の中でぽっかりと月が浮かんでいたそうだ。


「相変わらずロマンチストだな」


呆れる…と笑う俺に向かい、父は肩を竦めた。


「まあそう言うな。これでもいいネーミングだと自分では思ってるんだ」


概要だと言って渡された資料には、今にも崩れそうな赤茶色の瓦が乗った家の写真が載っている。


「この家、台風が来たら崩れるんじゃないのか?」


白蟻もいそうだな…と呟けば、その辺りのメンテナンスは既に済んでいると話す。


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