お見合いだけど、恋することからはじめよう
Chapter 1 ☆彡 お見合い相手の田中さん


クリスマスの連休が明けたその日(ちなみにクリスマスは今年も家族と家でケーキを食べた。こういうことから、彼氏がいない期間も含めて母親にバレていたのだろう)、あたしは憂鬱な気持ちで会社に向かった。

あたしは、自動車会社を主体としていろんな分野の会社を傘下に収める富多(とみた)グループを統括する、TOMITAホールディングスという持株会社に勤務している。配属先は秘書室だ。

よく勘違いされるのだが、秘書室に配属されたからといって「秘書」というわけではない。
あくまでも「秘書」と胸を張って言えるのは、取締役などの重役の方々につく「専属秘書」である。

なので、あたしのような者はせいぜい「グループ秘書」というのだが、それでもおこがましい気がする。「秘書室付きの事務職員」と呼ぶのが正しい。

なぜなら、勤務するフロアは、重役それぞれの部屋は確かに、重厚なデスク、ゆったりしたチェア、ふかふかの絨毯、とたいそう豪勢ではあるが、ひとたび我が「秘書室」のドアを開けると、机も椅子もフロアマットに至るまで、階下の総務部、営業部、人事部と同じだからだ。
やっている業務は、例えば営業部の事務サポートとたいして変わりがないと思う。

就活前に履歴書への賑やかしのためになにか資格でも、と本屋でぱらぱらぱら…と参考書を見て「この級までなら面接もないし、この程度だったら」と思ったので、秘書検定二級は取得していたが、今のところ役に立ちそうなシチュエーションはない。

配属されているのは、あたし以外には一人だけで、大橋(おおはし) 誠子(せいこ)という。


……この人が、あたしの「憂鬱の元凶」なのだ。

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