その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
オリヴィアはフレッドと並んで温室(コンサバトリー)のソファに腰掛け、侍女であるエマがお茶を淹れる手つきを見ていた。
 ティーカップの横には、目にも鮮やかな真紅の苺が山盛りになった皿。今日のお茶のお供だ。

「小ぶりだが、味は保証するよ。きみが気に入ると思ってね」
 
 フレッドがグレアム公爵家に婿入りして二ヶ月。ようやく少しずつ新しい生活に慣れてきたところだ。

 結婚してから、お茶の時間をここで過ごすのが習慣になった。多忙なフレッドも、仕事の合間を縫って共に過ごしてくれる。友人たちの様子や、領地のこと、もう少し落ち着いてからと決めている旅のことなど、他愛ない話をする時間はオリヴィアにとって大事な時間である。
 
 ガラス張りの壁の向こうには、そのまま公爵家の広大な敷地が広がり人工の池を臨むこともできる。フレッドの背丈よりも高い木が葉を茂らせて天井を覆う隙間からは、午後の陽光がきらきらと室内へ零れ落ちていた。ハーブの鉢も並べられた開放的な空間は、オリヴィアの気に入りの場所である。

 だけど今は景色を眺めるよりも、オリヴィアの目は苺に釘付けだ。
 
「これを、お義母様御自身で?」

 苺はフレッドの母親からの贈り物だ。なんでもアルバーン伯爵家で栽培したものらしい。ちょうど今頃、四月の終わりから五月の初旬が、アルバーンの領地では苺ができるのに良い季節なのだという。

 新しい物好きの女性なのだと聞いているけれど、苺の栽培までするとは驚きだ。苺はようやく栽培方法が確立したというところで、アルディスではまだまだ貴重な果物である。
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