その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「そうなんだ、あの人は庭師(ガーデナー)任せにしないから。『娘』に渡してくれって」
「こんなにたくさん……! ジャムにタルトに、パイもできますね。お礼をしなくちゃ」

 オリヴィアが声を弾ませると、フレッドがくすりと含み笑いをする。

「きみは菓子にする前に食べ切ってしまうんじゃないかな?」 
「フレッド」

 口を尖らせるも、フレッドが目を細めて見つめるので長くはもたなかった。それに実際、苺ならいくつでも食べられそうだ。ここに置いたままでは、すぐに食べ尽くしてしまいかねない。
 そう思っていたら、エマが心得顔で「お菓子用にも取り分けますね」とうなずいた。

「加工してから渡してくれと母には言ったんだが、結果的にはこのままで良かったみたいだ。気に入ってくれて嬉しいよ」
「早速いただきますね。美味しそう……!」
「ああ、待って」

 今まさに苺を摘まみあげたところだったのに、身を乗り出したフレッドにその手を取られた。

「それ、僕にくれるかい?」
「え? え、ええ、もちろん」

 くれるもなにも、青と金で縁取りされた白い器にはまだたくさん残っている。オリヴィアが首を傾げると、フレッドにぱくりと苺を咥えられた。摘まんでいた、指ごと。
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