恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
壹・降って湧いた縁談

一寸先も見えない暗い馬車の中で、徐 鳴鈴(ジョ・メイリン)は膝を抱えて震えていた。

実家が用意してくれた馬車は簡素で、かろうじて箱型にはなっているが、急ぐとひどく揺れるため、危なくて火が灯せない。

(こんなに遅くなってしまうなんて)

後宮にいる遠い親戚──母のまたいとこである彼女は、皇帝の側妃のひとりで名を翠蝶(スイチョウ)徳妃という──を訪ね、おしゃべりに夢中になっているうちに日が暮れてしまった。

実家からの贈り物を届けてすぐ帰るはずが、後宮の見事な庭を散策し、最高級の茶葉を使ったお茶や、珍しい菓子を御馳走になり……お礼に持参した横笛を披露すると、翠蝶徳妃は手を叩いて喜び、もっともっととねだられるうちにこんな時間に。

(早く屋敷に着かないかしら)

暗くて狭い空間に閉じ込められていると、理由もなく怖くなってくる。それに、だんだんと寒くなってきた。
鳴鈴が手をこすり合わせると、体が不意に大きく揺れた。

「きゃあ!」

馬の嘶きが聞こえる。急停止した馬車の中から顔を出し、外を見た鳴鈴は卒倒しそうになった。


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