一途な御曹司に愛されすぎてます
 そぼ降る雨を受けて薄っすら煙る高原と、白い靄の中に建つ古城ホテル。

 幻想のように美しい景色が遠ざかるのを眺めていたら、寂しさに胸が締めつけられた。


 私は、階上さんに惹かれていた。

 でも制限時間付きの魔法はもう終わり。現実に帰らなければならない。


 車窓を流れる景色に彼の微笑みが重なって、鼻の奥がジンと痺れて目頭が熱くなる。

 まるで、お城から慌ただしく逃げ出すシンデレラみたいだ。

 おとぎ話と違うのは、私は階段に置き忘れる靴すら持っていないこと。

 だから彼が私を追いかけてくることはないだろう。

 夢の時間を過ごした代償として、私は自分が決してシンデレラにはなれないという事実を、再びこの胸に深く刻んだ。


 さようなら階上さん。さようなら王子様。

 さようなら。さようなら……。


 タクシーの屋根を叩く静かな雨音と、心の中で繰り返す別れの言葉が物悲しく胸に響く。

 断ち難い思いに心を掻き乱されながら、私は『これでいいんだ』と何度も自分に言い聞かせていた。





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