ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
猛暑の思い出
「えっ、旅行ですか?」

八月に入り、なお暑さは厳しくなるばかりだった。そんな中でギプスは蒸れるだろうな、と副社長の足を眺めていると、よくもまぁ考えたものだ。先端の丸まった細いマドラーを突っ込んで掻いている。

でも、それも今月末で終わりだ。予定ではその頃にギプスが取れるからだ。副社長との縁もそこでキッパリ切れるだろう。

そんなことを思っていたら、思いがけない提案を副社長から下された。

「保育園の納涼祭に参加できなかっただろう?」

確かに。でも、それと旅行と何の関係があるんだろうと思っていると副社長がコホンと胸を張る。

「思い出を一つ失った分、可愛い瑞樹に僕が一つプレゼントしようと思うんだ、魔法使いみたいに」

時々、副社長はネジがぶっ飛ぶ。
それもおそらく瑞樹可愛さからくるものだろうが……。

「ちなみにですが、どこに行こうと考えていらっしゃるのですか?」

「それなんだが、暑いからアイスランドなんてどうだ? ブルーラグーンという温泉施設から見るオーロラが最高なんだ」

彼の口ぶりで行ったことがあるんだと気付く。

しかし……この非現実的な提案に開いた口が塞がらなかった。聞いた私が馬鹿なのだろう。

「瑞樹がオーロラを見て喜ぶ? 馬鹿も休み休み言って下さい。こんな小さな子に分かるわけないじゃないですか」

「なぜ馬鹿だ? なぜそう言い切れる! 実際に見せてみないと分からないじゃないか」
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