ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「あのですね、子供が覚えている一番小さな頃の記憶って通常三歳過ぎ……それでも早い方。確実には四歳以降らしいですよ」

副社長を見ながらどうだと言わんばかりに顎を上げ、「だから、二歳の瑞樹に見せても無駄なことです」と言い切る。

だが、副社長の反応は思いもかけないものだった。

「だからお前は馬鹿だと言うんだ」

鼻息荒く副社長が反撃を始める。

「瑞樹だぞ! 天才的に賢い瑞樹だぞ。例え記憶に残っていなくても、深層心理という奴が覚えていて、瑞樹の情操教育に一役買うに決まっている。瑞樹はそんなふうに無意識下で自分を高められる奴だ」

……これって親バカ発言ではないだろうか?
思わず唖然とする。

「だから、実行もしないで『無駄』だと言わないことだ。人生に無駄なことなど何もない」

副社長は時々ネジを飛ばすが、時々、サラリと名言を吐く。

確かにと納得しかけ、いやいやと慌てて頭を振る。もう少しで言いくるめられるところだった。

「情操教育云々は分かりました。でも、今年は日に日に最高気温を塗り替え更新するほど暑い夏なんですよ」

先日は四十度近くなったところもあるそうだ。人間で例えて言うなら高熱だ。

「だから何だって言うんだ? だから、涼みに行こうと言っているんだ」
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