7・2 の憂鬱




「2月29日だよ」


優しく、鼓膜を震わせられて。



「―――え?」

わたしは、耳元にキスをする戸倉さんにパッと顔を向けた。

目が合うと戸倉さんはイタズラが成功して喜ぶように、ニッと唇で笑う。


「2月29日。僕の誕生日。4年に1度しかない、いつもは2月と3月の狭間に隠れてる日だよ」

なぞなぞの答えを披露してくれた戸倉さんの目には、ほんのわずかな哀色が滲んで見えた。


・・・ああ、確かに、”仲間外れ” の日であることに違いない。

どうして気付かなかったのだろう。


微かな動揺が胸に走った。

「今まで同級生でも同じ日生まれの人間がいなくて、よく珍しがられたよ。もちろん、誕生日祝いは毎年前日の28日にしてもらってたけど、子供の頃は、なんだか暦の隙間に落とされたような気がして、一人ぼっちな感覚は消えなかった。まぁ、今まで誰にも話したことはなかったけど。でも、だから・・・」

戸倉さんはわたしのこめかみに口づけて、

「自分の誕生日にコンプレックスを重ねた白河の気持ちが、少しは分かったんだ」

滲んでいた哀色を溶かしてしまうほどの愛しさで、そう言ったのだった。


唐突に、わたしは戸倉さんのことを抱きしめたくなってしまい、
迷わずそれを実行に移した。


シーツから出した腕をまわして、戸倉さんの頭をグイッと引き寄せて、彼の髪をそっと撫でる。
いつも彼がそうしてくれるように。


「え、白河?」

戸惑う恋人の声をすぐ間近で聞いて、その焦り声ごと抱きしめたかった。


社内一番のイケメンで、仕事も完璧で、誰からも慕われて、いつもみんなの中心にいる戸倉さん。

なのに、誰にも打ち明けてない想いを持ち続けていて、そんな中で、わたしを励ましたり慰めるような言葉をくれて・・・・


無性に、彼を、愛したくなったわたしがいた。


「ちょ、白河・・・」


2度目のわたしからのキスは、1度目とは比べようもないくらい、大胆だった。

「んっ・・」

息つぎで途切れたわずかな隙をついて、戸倉さんは攻守交代させた。
そしてわたしはそれを許した。

「もう止められないからな」

そう告げた戸倉さんがシーツを捲るのと、
わたしが彼のシャツを滑り落とすのは、
どちらの方が先だっただろう。



ベッドで想いを伝え合うわたし達には、もう、互いの吐息しか聞こえてなかったのだった・・・・・










(完)







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