7・2 の憂鬱




戸倉さんと想いをかよわせてから、ひと月が過ぎた。

当初は公にするつもりなどなかったけれど、やっぱり毎日同じ職場にいると、分かる人には分かってしまうようで、やがて、わたし達の関係は社内では知られることになっていった。

そのことで、きっと、陰ではいろいろ言われたりもしたんだと思う。
実際にそれっぽいことを話してる雰囲気に遭遇してしまったこともある。
でも不思議と、以前のように、

”わたしのせいで戸倉さんの評判にキズがついてしまう”
”わたしは戸倉さんと一緒にいない方がいい”

なんて、思わなくなっていた。

それは、このひと月、戸倉さんが飽きるほどに気持ちを伝えてくれたせいかもしれない。

新しい部署の関係もあって、会議やら顔合わせやら、ほとんど毎日一緒だった。
時には食事がてらミーティングすることもあって、戸倉さん以外の人達とテーブルを囲むのはやっぱり多少の苦痛を感じたりしたけど、戸倉さんの顔を汚したくなくて、わたしなりに頑張ってみた。

けれど、いろんな考え方をする人がいるのは事実で、時には、その矛先が戸倉さんに向かうこともあった。

戸倉さんが新しく任されたのは欧州事業展開強化チームというもので、名前の通り、ヨーロッパ方面での取引を拡大させるプロジェクトだった。

その責任者である戸倉さんが、まだ2年目のわたしを選抜したことに納得できない人がいたのだ。

もしプロジェクトが成功すれば立派な功績になるわけで、参加したかった先輩社員も多くいたから。

『結局、自分の彼女を贔屓したんだろ』
『戸倉さんもただの男だったんだな』

そんな声があったのは事実だった。

だからわたしは、頑張らなきゃいけないと強く思ったのだ。

仕事はもちろん、”戸倉さんが選んだ人間” として、例え陰口たたかれても動じないほどの、自信と自覚をを持たなければいけないのだと。











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