ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
第一章◆行方不明事件




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『次のニュースでは、月夜ヶ丘町の行方不明事件について詳しくお伝えします』

ラジオ番組のアナウンサーは今日も同じ特集を読んでいる。

理学部棟・第十八研究室。

私はブラウスとスカートの上から白衣を羽織り、シャーレの中の透き通った培地をじっくりと眺めていた。

隣では、PCを使って解析作業をしている加賀先輩のマウスの音と、彼が常につけているラジオの音だけが響いている。

院生の加賀先輩は、理系男子にしてはコミュニケーション能力が高く、白衣を着ていてもお洒落に見える、リケジョ達の間ではトップクラスの人気を誇る人だ。

私・白雪朱莉(シラユキ アカリ)は、教授に頼まれ彼のアシスタントを務めている三年生。

研究室のメンバーは他にもいるのに今日は珍しくふたりきりで、緊張のせいか背中がピリピリと張りつめていた。

「白雪さん。培地どう?」

「は、はい。追加でフラスコに作っておきました。使用後のものは滅菌してあります」

「手際いいね。ありがとう、助かるよ」

先輩が手を止めて微笑んだので、私も同じ顔を作って、それに応えた。

シャーレをしまい、使ったフラスコやピペットの洗浄に入る。

私はただ黙々と進めたが、緊張に耐えきれず横目で先輩を盗み見ると、彼の解析も一区切りつきそうだった。

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