紙切れ一枚の約束
紙切れ一枚~将来

「談話」

私は話した。真壁さんのこと。婚活のこと。初めて女性として見てもらえて、うれしかったということも正直に話した。妹尾は黙って聞いていた。もう、馬鹿にしたような薄ら笑いは浮かべず、真剣に聞いていた。

妹尾も話してくれた。会っていなかった数年間のうちに、彼は辛酸をなめていた。教員になってから、人間関係に悩み、生徒との距離感に悩み、心の病を発症して今は休職中であること。合格祝賀会でいっしょにお祝いした同じ教員の妻とは離婚してしまい、それが新たなこころの傷になり、今は教師をやめてしまおうかとまで思いつめていること。けれど、みんなに祝ってもらった以上、弱音は吐けず、そんな「人生の負けを認める」ような報告は絶対にしたくないと意地を張っていたこと。それでも大学時代にみんなで楽しく過ごしたこのカフェで、もう一度自分を見つめなおしたい、心のどこかで人とのやさしい繋がりを求めていたこと。だが、ここで会ったのは、初めての「モテ」に有頂天になり、学生時代からその真面目さと知性を尊敬していた我妻先輩……つまり私の「変わり果てた姿」だったこと……。
< 7 / 10 >

この作品をシェア

pagetop