異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
プロローグ
「水瀬さん、今日Aチームのリーダーを任せてもいいかしら」

 ナースステーションで朝の申し送りに参加しているときだった。夜勤帯の患者の経過や今日の入院、検査の有無などを手帳にメモしていると、今年で四十五歳になる看護師長から声をかけられる。

 この病棟では東西に分かれるように配置されている部屋をAとBチームに分けて、看護を実践している。そのAチームのリーダを任されたのだが、前日自分の役割が書かれたホワイトボードを確認したところ、処置係になっていた。急遽リーダに変わったということは、おそらく欠勤者が出たのだろう。

「飯野さんのお子さんが熱を出しちゃったみたいで、今日は休むそうなの」

 やっぱり……。
 しかも、その言い方はあきらかに迷惑そうだ。他の看護師も子供を理由に仕事を休むことをよく思っていないらしく、近くにいる同僚とヒソヒソ愚痴を漏らしている。それに気づかないふりをして、私は建前の笑みを返す。

「そうでしたか……。麻疹も流行っているみたいですし、心配ですね」

「っ……そうね」

 看護師長は苦い顔で、しどろもどろに相づちを打つ。

 こういう場合、同意を求めているのは百も承知なのだけれど、私は否定も肯定もしない。便乗しても、正義感を振りかざして庇っても、火に油をだけでどちらも欠勤した飯野さんの立場が悪くなるからだ。

「大丈夫ですよ、師長。もともと処置係でしたし、両方できますから」

「え、ええ……ありがとう」

 気まずそうに申し送りを再開する師長に、こっそりため息をつく。最近は男性看護師も増えてきたとは言うけれど、この死が最も近い終末期病棟には女性看護師しか在籍していない。女の園というのは、今も昔も蹴落とし合いで恐ろしいのである。

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