＊続＊恩返しは溺甘同居で!?～長期休暇にご用心！

2. 初めてのお客様

　
　「あっつっ！」

　「杏奈！」

　オーブンの扉を開けて、グラタン皿をセットしようとしたところで、予熱された中の端っこに手が触れてしまって、慌てて引っ込めたけれど、手の甲にピリッとした火傷の痛みが走った。

　「急いで冷やさないと。」

　火傷した本人よりも焦った顔で、修平さんは私の手首を掴み、シンクの水を思いっきり捻って水に浸す。
　私が流水に手を当てている間、彼はシンクの下からボウルを出して冷蔵庫の氷冷器から氷をガラガラとそこに入れた。

　「火傷のところ、ココに入れておいて。」

　そう言って、氷の上から水を入れて私の手をそこに漬ける。

　「つめたっ！」

　さっきとは真逆の言葉が口から飛び出て、なんだか可笑しくなった。

　「ふふっ、そんなに手厚くしなくても、大した火傷じゃないから大丈夫だよ。」

　かいがいしく私の手当てをする修平さんに、氷水の入ったボウルから手を上げてヒラヒラと振って見せた。

　「杏奈…」

　さっきセットしかけたオーブンをきちんとセットし直しながら、こちらを見た修平さんが渋い顔をする。
　スタートボタンを押した彼は、シンクの前に立つ私の隣にやってきて、私が上げている手を取った。

　「ダメ。俺がいいって言うまでちゃんと冷やしてて。」

　真面目な顔で私にそう言い聞かせながら、氷水に私の手を戻す。

　「冷たい……ホント、大丈夫なのに。」

　彼の過保護さに、少し唇を尖らせながら小さく抗議すると、

　「杏奈の綺麗な手が、もしも水膨れになったら俺が嫌なの。だから我慢して。」

　彼は私の頭を二度優しく撫でてから、こめかみにチュッとリップ音を立てた。

　「慌てて準備してるのも、もとはと言えば俺のせいだし…杏奈は久々の休日なのに、ごめんな。そのうえ今日は朝から俺が疲れさせちゃったし…。」

　私をからかっているのかと思うような彼の発言に、思わず隣を振り仰ぐ。
　でもそこには、大真面目な顔をした修平さんがいた。

　「本当に無理せずに断ってくれて良かったんだけど…。」

　申し訳なさそうに眉を下げている修平さんに、私はにっこりと笑ってみせた。

　「本当に大丈夫！さっきから何度も言ってるけど、私だって修平さんのお友達に会ってみたいの！大したおもてなしが出来なくても良ければ、って返事してくれたんでしょ？」

　「…うん、それは相手にも了解してもらってる。っていうか、あいつらがこんな直前になって連絡して押しかけてくるんだから、もてなす必要なんてないんだけど…」

　「もう、修平さんったら！」

　上目使いに睨んだふりをすると、彼の両腕が私の腰に回された。
　そして、「ありがとう、杏奈」と言った彼は、私の唇に触れるだけのキスをした。

　「せっかくの杏奈の休日なんだから、二人っきりでのんびりしたかったのにな。」

　そして再びチュッチュ、と啄ばむように口づける。

　「修平さん…」

　柔らかくて温かなその唇が、もう一度降りてくるその時、

　―――ピンポーン

　来客を告げるベルが部屋中に響き渡った。

　「は～、」とため息をついた後、私の腰に回していた腕を解いた修平さんが

　「俺が出るから、杏奈はここで待ってて。」

　と言って、体を折り曲げて、私の唇にもう一度口づけを落としてから、玄関の方に歩いて行った。
　時刻は17時半を回ったところで、まだ外は明るい。
　

　数時間前の、気まずい空間を割って入った着信音の主達がやって来たのだ。