おやすみ、お嬢様

あれはまだ大学に通っていた頃、友人達と山へ行った。2000メートル級の岩山で難所もなく、気分としてはハイキングのつもりだった。

登り始めたときは快晴だった。夜には天気が崩れてくる予報が出ていたが、それまでには余裕で下山している筈だった。

だが、頂上ではしゃぎすぎて時間が押した挙句、予想より早く雲行きが怪しくなった。おまけに体力不足かフラフラする奴が出てきた。後で知ったがアルコールを飲んだバカがいたらしい。

で、そんなバカの1人が足を滑らした。そこで俺が最大級にミスをした。つい、反射的に助けようと手を出してしまったのだ。

結果、俺は巻き込まれて一緒に山道から滑り落ちた。草の生えてない岩壁を滑るように落ちて途中の出っ張りで引っかかった。そこで次のミスに気づく。片足が動かない。

巻き込んだやつはムカつくことに無傷でなんとかロープで上の道まで戻ることができた。ただ、半分、パニクっていたし、時間をくう。そのうち、薄暗くなり雨も降ってきた。
そうなると判断は簡単だ。1人と残りの人数の差だ。俺を残していったん、みんな下山した。朝には救助を連れてくると言って。

俺は冷静だった。少なくともそのつもりでいた。リュックからもう一枚服を出すと着て、それから防水服をかさねる。なるべく岩壁側に場所をとって座った。携帯食と水をとる。足は痛んだが気を失うほどじゃない。体力はあった。俺がいる場所は分かっている。あとは、朝を待つだけだった。
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