うるさいアドバイスは嫌味としか思えません。意気地なしのアホとののしった相手はずっと年上の先輩です。
5和央に相談してみたけど
早速携帯を出してメッセージをいれる。
彼女はいないので(多分)、気を遣わずに連絡できる。

『和央、ちょっと聞いてよ~、今まさに天敵の部屋にいるんだけど。』

『何で?』

『知らない。』

『お持ち帰りされたの?』

『タクシーに押し込まれてここに着いた。個別の説教らしい。』

『男の部屋で?』

『わっけ分かんない、アホだ。』

『それで、今、何してるの?』

『なんだか明日にって、冷静になってる時に話し合うって言われた。シャワー浴びてる、その後借りる予定。』

『姉ちゃんもアホ?何で付き合ってんの?会社じゃダメなの?』

『ダメだって言われて、連れてこられた。もう遅いから泊めてやるって。』

『襲ってもらうつもり?』

『部屋に入る時にそれはないってわざわざ言われた。酷くない?余計な期待はするなって言ったんだよ、酷いよね。』

『・・・・酷いってどういう意味で言ってるの?よくわからない?』

『私も分からない。どうしたらいいの?ここがどこだか分からない。駅がどこにあるのかも分からない。帰るには遅い。』

『寝室の前にバケツでも置いてから寝れば。その代わり明日はその人より早起きした方がいいよね。』

『・・・・・考えとく。』

『帰る気ゼロだね。泊まるんだ、そんなに悪口言ってた男の部屋に。まあまあいい男なんでしょう?前歴もいいって言ってたよね。いっそ、この機会に仲良くなれば?』

『だから嫌われてるんだって。』

『じゃあ、なんで泊めてもらえるの?』

『それ込みで意地悪とか、何らかの仕打ちとか。』

『面倒。嫌いなら関わりたくない。』

『全っ然分からない。冷蔵庫自由にって言われた。ビール全部飲もうかな。』

『明日間抜けな寝顔さらすよ。絶対寝坊するでしょう?おすすめはしない。』

『なんとか一矢報いたい気分なの。何かいい案ない?』

『せめてびっくりして参ったって言わせられる料理の腕があったらね。』


『・・・・違う案をお願いします。』

『寝込みを襲う?』

『ない。』

『わかんないよ。なるようになってみて。ちょっと興味あるから、明日報告して。夜連絡待ってるから。もし、もう一晩泊る展開になったらいらない。日曜日の夜でいいから。』

『ない。あり得ない。明日報告する。妙案が浮かんだら明日の朝までの、いつでもいいから連絡して。』

『うん、わかった。楽しみに待ってる。』

『ちゃんと考えてよ!』

『期待しないで。僕はするけど。』

『何それ?』


何の相談なのか。
ただただ混迷するばかり。
携帯を見つめて唸る。
今までも誰にも言えない愚痴を小出しに吐き出していたから話が通りやすかった。
まあまあいい男とか前歴がいいとか言ったか?
・・・前歴は褒めたかも。

あ~あ、今の状況の聞き出されただけで、何のアイデアもくれなかった弟。
いつものように愚痴を聞いてもらっただけだった。

携帯を見つめたまま唸っていたら、声をかけられてビックリした。

「後は自由に。お休み。ビール足りなかったら飲んでいいし。」

そう言ってさっさと寝室らしいところに引っ込んだ。
まだ日付は変わってない。
話をしても良くない?
何で明日に延期した?
そんなに冷静さを欠いてるように見えた?
今まで口答えせずに言いつけ通りにしてきたから、ちょっと大きい声を出したり、反論したのがヒステリーみたいに見えたのかも。

だってどう考えてもおかしい状況だし。
もうどこに突っ込んだらいいのか分からないくらい。

何なの?

それしか言えない。
今日だけでも何度も思った。
今までだって何度も思った。

気がついたら時間が経っていた。
そばに置かれた服を広げる。
さっき持ってきてくれた服だ。
パジャマ代わりにこれを着ろと。
新しくもない、さっき自分が着ていたのとお揃いみたいな感じだった。

取りあえず出てくる気配はないので、言われたようにバスルームに向かってみる。
そこに明らかに前の彼女の置き土産のような化粧品があった。
ご丁寧に一回分のサンプルもあってゴチャっと置かれていた。
その中から適当に借りて、歯磨きもして、鍵をかけたうえでシャワーも借りた。

まさかこうなるとは。

適当に浴室の物も借りてさっぱりして、借りた服に着替えた。

冷蔵庫から水を取り出してソファに持って行くと、毛布が置かれていた。
私がシャワーを浴びてる間にここに来たらしい。

ちょっとムッとする。

『話があるのを忘れるな。』

毛布の上にそのメモを見つけていっそうムッとした。
勝手に帰るなってことだ。

きちんと礼はしろと言うことか?宿泊のお礼をしろと?

勝手に引っ張って来たくせに。
イライラして眠れそうにない。
本当にビールを全部飲み干したい気分だった。
冷蔵庫に六本くらい入ってるのを確認してる。
明日の朝、寝坊するわけにはいかない。
いっそ飲んだ振りして全部シンクに流したいくらいだけど、さすがにそんなもったいない事は出来ない。それに捨てたと分かったらどんな請求が来るか分からない。
腹は立てても、私は常識を持ち合わせてる人なのだ。

メモの写真を撮って和央に送った。

『シャワー浴びてる間に毛布を置かれて、メモがあった。むかつく。ビールが冷蔵庫に六本。全部飲みたいけど我慢する。明日寝坊しないように寝る。休戦する、お休み。』

『お休み。いい夢を。』

『無理。』

ソファのクッションを枕に寝た。
大きめのソファでまあまあの広さだった。
それは良かった。



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