水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
もう一人の『碧』
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 じりじりと、太陽の光が肌を焼くように照りつけている。波音が身じろぐと、開《はだ》けた背中と脹ら脛《ふくらはぎ》に、さらさらとした砂のようなものが擦れ合った。

 顎《あご》を高く持ち上げられ、鼻をつままれ、口からゆっくりと息を吹き込まれる。温かく薄い唇が波音のそれをぴったりと覆い、空気を逃げさせまいとしているようだ。

 その唇が離れた後、波音は咳き込んで少量の水を吐き出し、意識を浮上させた。

(助かった……?)

 誰かが人工呼吸を施してくれたのだと、まだぼんやりとした頭でどうにか理解する。全身が鉛《なまり》のように重く、動くことができない。

「おい……生きているなら反応しろ」

 聞き覚えのない、男性の声。心なしか、言葉に高圧的な含みがある。大和でないことは確実だ。

 ならば、海岸に常駐しているライフガードだろうか。肩と頬を若干強く叩かれ、波音は徐《おもむろ》に両目を開けた。

 しかし、あまりの眩しさに顔を顰《しか》め、男性の姿を認めることなくすぐに目を閉じた。砂浜に戻って来ているようだ。一瞬見えた空の青さと、肌に触れる砂の感触で、そう分かる。

 溺れた波音を、男性が助けてくれたのだ。

「おい」
「……う……は、い……」

 今度は、耳の近くではっきりと声が聞こえた。やはり、どこか不遜《ふそん》な態度だ。
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