冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 しかし意外にも、ウォルフレッドの質問は否定された。ということは、侍女との会話に出てきたフィラーナの縁談の相手とは、初めから自分だったということになる。そして、フィラーナがその縁談相手にあまり好感を持っていないことも思い出した。

(それはつまり……俺のことだったのか)

 フィラーナに正体がわかってしまったことで、もう彼女はあの日のような笑顔を見せてくれないかもしれない。そう思うと、不覚にも一抹の寂しさに似た感情がウォルフレッドの心をざわつかせた。だが、変わり者として噂され、その原因が自分にある上に、何の撤回もしてこなかったことは十分自覚していたので、この先フィラーナに避けられても仕方がないと思った。

 自分の信念に従っての行動に後悔したこともなく、これまでも前だけを向いて生きてきた。ただ、港町でフィラーナと過ごした時間を懐かしんでいる自分がいることに、ウォルフレッドは少し戸惑っていた。


 こうして、ウォルフレッドとフィラーナの運命の歯車は、双方の思いにズレを生じさせながら再び回り始めたのである。


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