冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 レドリーを下がらせた後も、ウォルフレッドは腕組みを解かず、考え込むように瞼を閉じた。港町で出会った快活な少女と、今日謁見の間にいた淑やかそうな令嬢の姿がきっちりと重なり合う。

(ライラではないのか……?)

 いや、雰囲気は違うが、どう見ても同一人物だ。父王に代わって政に携わるようになったからなのか、自然と観察眼は身に付くようになった。おそらく『ライラ』というのは偽名であろうと推測できるが、それについてフィラーナを咎めるつもりはない。きちんと名乗られたわけではなく、あくまで『ライラ』と呼んでいたのは周囲の人間だ。その点、フィラーナの侍女はずっと『お嬢様』と呼んでいて、一度も彼女の本名を口に出したことはなかった。

(ただ者ではないと思っていたが、まさか侯爵家の娘だったとは……。向こうもこっちをじっと見つめきたから、おそらく俺のことは気づいているはずだ)

 もう二度と会うことはないと思っていただけに、突然の再会は衝撃的だった。あまりの驚きで、表情筋が固まってしまったほどだ。

 仮にどこかで再会する可能性があるとしてもとしても、妃候補のひとりとして王城に現れるなど、まさに青天の霹靂だった。港町での侍女との会話の内容から、フィラーナにはすでに縁談の決まった相手がいるというのは判っていた。

 だから、ウォルフレッドはレドリーに尋ねたのである。『すでに縁談が決まっていたのに、何らかの理由で破談になった娘は含まれていたか』と。
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