冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「待て」

別れの挨拶を述べ、ドレスを摘んで優雅にお辞儀をしたフィラーナを、ウォルフレッドが呼び止める。そして一歩進んで距離を詰めると、彼女の背中にそっと腕を回した。

フィラーナの鼻先がウォルフレッドの胸元の上衣に触れ、まるで正面から包まれてるような感覚に陥る。

その瞬間、フィラーナの心臓がドキリと跳ね上がった。

「背中に葉がついていたぞ」

「あ、本当……ありがとうございます」

突風に煽られて後ろに転んだ時、ついてしまったのかもしれない。気がついてわざわざ取ってくれたとわかってホッとしたが、同時になぜか少し虚しさも感じた。

「気をつけて戻れよ」

ウォルフレッドが踵を返し、城の方へ戻り始めたのを見て、フィラーナも離宮の建物へと足を向けた。

胸の高鳴りが、なかなか鎮まらない。

(何なの、これ……。ああ、落ち着かない。やっぱり思い切り身体を動かしたい……!)

この時、周囲に気を配る余裕のなかったフィラーナはまったく気づきもしなかった。庭に面した回廊の柱の陰から、ミラベルが嫉妬と憎しみで暗く染まった眼差しを送っていたことにーー。
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