家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
1.降り立ったのは温泉地
ロザリンド=ルイスことロザリーは乗合馬車の中で鼻をクンクンとさせ、近づいてくる温泉地独特の匂いに確信する。

(間違いないです! きっとこの街です!)

そう思ったら、お尻のあたりがムズムズする。馬車の座席でお尻を振りそうになり、ロザリーは慌ててその衝動を抑えた。
隣に座っていた年配の女性が、怪訝そうな目で彼女を見つめる。

「すみません。次につく街はなんて言うんですか?」

「アイビーヒルというのよ、お嬢さん。ご存知かしら。イートン伯爵のお屋敷もすぐ近くにあるの」

「そうなんですね! ありがとうございます」

はつらつとしているものの、やや幼い言動に女性は怪訝な顔をしたが、ロザリーは気にも留めず、馬車の窓から外を見た。

小高い丘に、石塀で囲まれた大きなお屋敷が見える。その下に連なるように街が広がっていた。一番高い建物は、教会の鐘楼。その隣にある礼拝堂の高さと同じくらいの建物が、ひしめき合って並んでいる。白壁の建物が多く、町全体から明るい印象を受ける。

馬車は街の入り口をくぐり、石畳で整備された広場で止まった。

「あ、降ります!」

大きなスーツケースとは別に、体から離さないようにぴったりくっつけたポシェットから乗合馬車の運賃を支払い、ロザリーはついにアイビーヒルに降り立った。
< 6 / 181 >

この作品をシェア

pagetop