隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~

Autumn2

「はじめまして、莉々子の友人の美樹です」
「五十嵐です。よろしく」

開店直後のバーで、この日、私達は最初の客になった。
出迎えてくれた五十嵐さんは、さわやかさがいつもより増している。お客さんへの営業スマイルというより、私の友達だから悪い印象を与えないようにしてくれたのだとわかる。

「めちゃくちゃかっこいいじゃん」

美樹が私にこそこそと耳打ちをする。

「でしょ?」

そこは自信を持って同意したい。
五十嵐さんは、私達がどんな話をしたのか想像がついたのだろう。目が合うと、軽く肩をすくめて笑っていた。

「明日も大学でしょう? 二人共アルコールは二杯までね。あと、ちゃんと腹を満たせるものを食べること」

メニューを差し出してくれた五十嵐さんが言うと、「はーい」と返事をした美樹が、私の脇腹を小突いてくる。

「超過保護、愛されてるね」
「そ、そうかな?」

今度は五十嵐さんにもはっきり聞こえていたはずだ。でも、赤面する私とは対照的に、彼は平然とにこやかに流してくれた。「愛されている」という言葉を否定しないでくれたことに、一人で勝手にどきどきしてしまう。

「二人共、何を飲む?」

五十嵐さんに尋ねられ、美樹は少し悩んでいた。

「わたし、本格的なバーに来たのはじめてで、何を注文していいのか全然わからないんですよね」
「うちは誰でも入れるカジュアルなバーだから、なんでも好きなものを気軽に注文して。いつも飲み会では何を頼むのかな? 今、飲みたいものを言ってくれれば」
「ハイボールですね!」
「了解」

二人のやりとりを横で眺めていた私は、首をかしげた。
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