溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
「だから、お試し期間のつもりでいいから、俺たちの関係を今までとは変えてみないか?」


目の前にいるのは穂積課長なのに、癒し系の柔らかな雰囲気はなくて、私を見据える目元や口調からは色気すら漂っている。
普段の課長からは想像できない表情や声音から逃げる術を、私は知らない。


たぶん、キスを交わした昨夜から、こうなるような気がしていたと思う。
必死に気づかない振りをしていただけで、本当は昨日からずっと心を乱されていたんだから。


「私……社内恋愛には向いてませんよ。プライベートを引きずるタイプだと思うので」

「それは困るけど、そういうのはあとで考えればいい。だいたい、頭で考えてばかりだと恋愛なんてできないぞ」

「そう、かもしれませんけど……」

「じゃあ、決まりだな」

「いや、まだ私は……」

「でも、断らないだろ?」


ニヤリと落とされた含みのある笑みは、実に蠱惑的だった。

この凄絶な笑みを前にしてとうとう諦めてしまい、心には複雑な気持ちを大きく残したまま、ほんの僅かに首を縦に振っていた──。

< 104 / 380 >

この作品をシェア

pagetop