溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
懲りもせずに煽ったグラスから、レモンサワーが喉を通って体の中を下りていく。


「だから……」


それを感じながら正面に視線を遣れば、いつもの穏やかな声とは違う、少しだけ低めの声音が聞こえてきた。


聞き慣れてはいないトーンなのに、なんだかずっと聞いていたくなるほどに耳心地が好くて、不思議とふわふわとした気持ちになってしまう。
高揚感やときめきとはたぶん違うけれど、心が柔らかなものに包まれるような、どこか不思議な感覚を抱いていた。


「はい」


返事をしながら思わず笑みが零れていたのは、きっとそのせい。


「じゃあ、俺としてみるか? って訊いたんだよ」


そんな私の耳に届いたのは、さっきとまったく同じ台詞だった。
今度はご丁寧に説明まで付け足されていて、少し遅れてから聞き間違いなんかじゃなかったんだと理解する。


そこでようやく、アルコールに浸っていた思考がクリアになり始める。


「へ……?」


同時に、きっと今年に入ってから一番だと言えるくらいにマヌケな声を漏らしていて……。
睡魔に襲われそうになっていた瞼が一気に冴え、目を真ん丸にしてしまっていた。

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