溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
からかうように笑われて、やっぱり本気だとは思えないのに……。
テーブル越しに身を乗り出すようにした穂積課長が、無意識のうちにグラスを握っていた私の右手をおもむろに取ると、その一本一本を確かめるように触れた指をそっと絡めた。


「プライベートな時間は、すべて俺がもらう。代わりに、お前に女としての喜びを教えてやるよ」


真剣な眼差しと低い声音が、まるで誘惑するかのように鼓膜をくすぐる。
男の顔で浮かべられた笑みが私だけに向けられているから、もう視線を逸らせそうにない。


クラクラと、目の前が揺れる。
確実にアルコールとは違う理由で頰が熱を帯び、全身が熱くなっていった。


尊敬している人に真剣な瞳でこんなことを言われて、冷静でいられるわけがない。


「あ、の……」

「なにも言わなくていい。どうせ、拒否なんてさせないから」


言い終わるよりも早く右手を引かれ、グラスが倒れる音とともに僅かに残っていたレモンサワーが飛び散った直後、唇に熱いものが触れて……。
見開いた瞳に映る課長によって、私の中のなにかが強引に変えられてしまう予感がした──。

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