極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜

Chocolat,05 ほろ苦いチョコの余韻

篠原がベッドルームから出て行ったあと、シーツを身に纏ってコソコソとリビングに行った。そこで最初に視界に入って来たのは、服やチョコの残骸で乱れた黒いレザーソファー。


ふと、気を失った私をベッドに運ぶ彼の姿が脳裏に浮かんで、なんとなく居た堪れないような気持ちになってしまう。それでも、ソファーを直視しないようにして、床に落ちていたシャツを拾った。


だけど──。

「嘘……」

チョコやココアパウダーで汚れ切ったそれを見た瞬間、愕然としながら呟いてしまった。


さっきの篠原の『無理だと思うけど』は、きっとこういう意味だったんだろう。こんなシャツを着て会社に戻るなんて、どう考えても不可能だった。


「だから言っただろ、無理だって」


原因を作った張本人があまりにもあっけらかんとしているから、もう怒る気力すら湧いて来ない。


「ほらよ」


差し出されたのは、あれほどまでに欲していた原稿だけれど──。

「ありがとうございます」

嬉しいやら悲しいやらで、もう事務的な言葉を返すことしかできなかった。


「とりあえずシャワー浴びて、これでも着ろ」


体のあちこちにチョコの跡が残っているせいで他に選択権がなくて、仕方なく差し出された白いシャツを受け取った。

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