極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
シャワーを借りて着替えた篠原のシャツは、私の体には大きい。それでも、余った裾をスカートの中に入れてからジャケットを羽織ると、一応スーツ姿に見えないことはなかった。


仕方なく、編集長に原稿を渡したら意地でも帰ることを決め込んで、重い足取りでリビングに戻ったけれど──。

「……あれ?」

テーブルの上に置いておいたはずの原稿が、彼と一緒に消えている。


「もうっ‼︎」


篠原の性格の悪さは、きっと天下一品に違いない。


「本当に最低っ……!」


私は吐き捨てるように言いながらバッグを持って、わざとズカズカと歩いて彼がいるであろう書斎に行った。


「先生っ‼︎」


ドアを乱暴に開けて叫ぶと、パソコンに向かっていた篠原が顔を上げた。


「なんだ、全部着たのかよ……。俺としては、シャツだけ着た姿が──」

「原稿をくださいっ‼︎」

「……お前はそればっかりだな」

「それが仕事なんですっ‼︎」


今にも掴みかかるほどの勢いで食い下がっていると、彼は原稿を持って立ち上がった。


「わかったよ……と言いたいところだけど、その前に俺のことを呼んでみろ」


篠原からの意味のわからない要望に眉を寄せながらも、原稿のために迷わずにそれを飲む。


「先生!」


すると、彼がガクリと肩を落とした。

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