私の嫌いな王子様
1、おでかけ

小鳥のさえずり、そして差し込む朝日。

ゆっくり目を開けるとそこには…

「おはようございます。お嬢様。」

「きゃああ!!」

目の前に突然現れた人物に驚き、

布団を勢いよく被る少女。

「朝からなんとはしたない。」

やれやれとおでこに手を当てる、

目の前の人物。
「ばあや、驚かせないでほしいわ。
朝から心臓が止まるかと思ったじゃない。」

少女を驚かせた人物はこの家で少女が

産まれる前から働くばあやであった。

「レイリスお嬢様、今日はお城へ参る日
なのでございましょう?用意をしなくても
よろしいのですか?」

「大変!!クレアに怒られてしまうわ!
ばあや用意を手伝ってくれない?!」

「はいはい。」

そうこの少女こそ物語の主人公である

パトリシア侯爵の令嬢レイリス・パトリシア
なのだ。

お化粧を済ませ、わざと農場の娘ような

洋服をタンスから出しすぐに着替える。

「侯爵令嬢という方が何故このような
格好を。」

「そんな肩書きが重いからこの服を
着るのよ。」

そう言いながら馬舎に走って向かう。

「おはよう、ユーリス。」

使用人に餌を貰っていた愛馬に

優しく声をかけ撫でる。

ユーリスはレイリスの顔に擦り寄り

嬉しそうに鳴いた。

レイリスは使用人から顔隠し用の

マントをもらい首元でボタンを留め

ユーリスを馬舎から連れ出す。

「ばあや、夕暮れには戻ると思うから
お母様にはそう伝えておいて。」

「承知致しました。お気をつけて
行ってらっしゃいませ。」

深くお辞儀をするとレイリスはユーリスに

乗り、お城へと向かっていった。

今日は水曜日。城下町の大通りでは

水曜市がやっていた。

まだ朝早いせいかお昼ほど人は
多くない。

大通りをすぎると我国シェラザード国の

お城の門が見える。

城門のまえで軽やかにユーリスから降り

衛兵に声をかける。

「パトリシア侯爵令嬢、レイリス・パトリシアです。王女様から来城命令を仰せつかりました。」

マントを外し衛兵の目を見てしっかりと
言った。

「存じております。お通り下さい。」

敬礼をし門を開けた。

そしてまたユーリスに乗り城までの
道のりを走っていく。

(あれは…。)

しばらくすると正面玄関に人がいるのが
見えた。

「アシュリーさん。」

待っていたのは王女専属執事の
アシュリーだった。

「おはようございます、レイリス様。
王女様は南庭園でお待ちです。」

「わかりました。ありがとうございます。」

そう言うとまたレイリスは馬に乗り

正面玄関の反対側にある南庭園へ
向かった。

馬を走らせていると、庭園の中に

ぽつんと1人人影が見えた。

「クレアー!」

レイリスが声をかけると、その少女は

振り向く。風に吹かれ髪を抑えながら

「レイー!」
と返した。

この少女はシェラザード国第一王女

クレア・シェラザードである。

馬から飛び降り、クレアに抱きつく。

「ちょっとー、朝から苦しいわ。」

笑いながら抱きつくレイリスをクレアは
押し返した。

「だって、久しぶりに2人でお出かけするんだもの。楽しみだったのよ。」

えへへと照れ笑いするレイリス。

「私もよ。はやく行きましょう!」

浮き足立つ2人は早速城の馬舎に
向かった。

クレアの馬を用意し、2人はいたずらっ子の

ような笑みを浮かべ城門まで馬を全速力で
走らせた。

正面玄関までくると、先程会った

アシュリーが後ろから

「クレア王女ーー!!!」

と顔を青白くさせながら叫んでいた。

その光景を見ながらレイリスは
苦笑していた。

隣の王女様はというと、不敵な笑みを

浮かべたまま城門の衛兵に

「衛兵!門を開けなさい!命令よ!」
と叫んだ。

衛兵はすぐさま門を開けたが

馬はもう目の前にいた。

衛兵が目をつぶった瞬間、2人の馬は

衛兵を飛び越えた。

もう一度アシュリーが後ろから叫ぶと

クレアはお城に手を振り、城を後に
した。

しばらくすると2人は馬を近くの馬舎に

休ませ、城下町の大通りを歩く。

まだ季節は春でポカポカとした暖気だが

顔隠しのマントを被った2人はとても

暑そうにしている。

「マントなんていらないわ。」

「だめよ、クレア。私はともかく貴女は
バレたら大変だもの。」

今にもマントを取りそうなクレアを
なんとか制する。

「喉が乾いたわ。あそこのお店に入りましょ!」

クレアが指さすのは城下一人気のカフェ。

「キリアールね。あそこならマントを
外しても大丈夫だわ。」

2人がカフェに入ると店主が出てきた。

「おやおや、王女様じゃないかい。
それにレイリス様まで。」

腰に手を当て、ニコニコ笑顔で
迎えてくれた店主。

ここの店は王族を初め、貴族や一般の民も
利用してる国一番のカフェだ。

ここではみな身分を隠さず利用している者が

多いため、もちろん2人も店主には

顔を知られている。

そんな店主にクレアは慌てて言った。

「ミーシャ!私たち誰にも言わず
遊びに来てるのよ!もしアシュリーにでも
捕まったら一溜りもないわ。」

すると店主であるミーシャは高らかに
笑った。

「王女様、また黙って出てきたのかい。
まあとりあえず奥の個室入んな。」

ミーシャの優しさに感謝して2人は
個室に入った。

注文はもちろんいつもの飲み物。

常連客の2人にはもう慣れた注文だった。

「あーあ、お城に戻ったらまたレッスン
だわ。今日のために2日分のレッスンを
したというのに。」

クレアは突然ため息をつき愚痴をこぼす。

そんな姿をみてレイリスもため息を
つくのだった。

「私はまた説教が始まる気がするわ。
クレアを連れ出してしまったもの。」

「レイのせいじゃないわ。今日は私が
誘ったのよ?
もしこのあとお父上に説教受けたら
私にすぐ言ってね。私から説明するわ!」

強気なクレアに思わず笑いがこみ上げる。

そんな楽しい雰囲気の中、突然
大通りのほうから悲鳴が聞こえてきた。

レイリスはすぐさま反応し、クレアに

ここで待っててと伝える。

「いえ、ついていくわ!」

この後に及んで正気かと思ったが

ここに置いていくより安全だと思い直し

連れていくことにした。

大通りに出れば、1台の馬車と5歳くらいの

女の子がいた。

「なにをしている!早く引き殺せ!」

と、馬車の中から男の声がした。

女の子は震えていて動けない様子だ。

そして馬車の馬が鳴き、女の子に向かって
走っていく。

周りの市場の人達が悲鳴をあげだす。

もう少しで引かれてしまうと思った

その時、小さな竜巻が馬にぶつかった。

それも1つではなく数えられないほどだ。

竜巻は馬を傷つけず、馬車を半壊させ

女の子から遠ざけた。

驚いたのか馬車に乗っていた男は

転げ落ちながら馬車から出てきた。

「誰だ!!この俺に手を出したやつは!!」

男は辺りを見回し、怒りを露わにする。

「あら、ごめんなさい。驚かせてしまった
かしら?」

竜巻を発生させたのは、レイリスだった。

だがマントを被っているせいか男は

自分よりも階級が上の侯爵令嬢である

レイリスということに

気づかない様子だ。

「女!調子に乗るんじゃないぞ!!
この俺を誰だと思っている!」

「存じておりますわ。ヘルツ伯爵。」

鼻で笑いながらレイリスは言った。

この荒れている男はれっきとした
伯爵なのだ。

「低俗な一般人がこの俺に逆らうとは
いい度胸だ!身をもって償うがいい!」

そう言って手を前にかざし、鋭利な氷の
矢をレイリスに向かって飛ばした。

「低俗なのは貴方ではなくって?伯爵。
通りすがりの民に氷の矢飛ばすなんて、
伯爵の名が聞いて呆れますわ。」

レイリスに向けられた氷の矢は発生した

突風によって伯爵のほうに向き直り

そのまま向かっていった。

それに気づいた伯爵は腰を抜かし、
倒れた。

そして、綺麗に伯爵の服だけに

刺さり地面に男は拘束されてしまった。

それを見ていた民は喜びの歓声と拍手を

レイリスに送った。

「さすがね、レイ!」

そばにいたクレアも嬉しそうに拍手

している。レイリスが照れながら

笑っていると後ろから無数の馬の
蹄の音がしてきた。

「国家騎士団だ!」

民がざわめき、慌てて道を開ける。

そして騎士団の先頭にいた男が馬から

降り、レイリスの前に立った。

「レイ!!お前というやつは護衛も
付けず王女様を連れ出すなんて!!
何度言ったらわかるんだ!」

そうこの男はレイリスの兄

ルイヴィス・パトリシア。

騎士団の副団長である。

大通りのど真ん中でレイに大声で説教を

しているせいか、周りの目が痛い。

「ルイやめなさい!私が連れ出してと
わがままを言ったのよ!レイを責めないで!」

クレアがレイリスとルイヴィスの間に入り、

説教を止めようとした。

「しかし!」

「いいのよ、クレア。お兄様、私が
悪かったわ。ごめんなさい。」

シュンとしながら謝る妹を見て、

処分は後だ。と言い団員に伯爵の
処理を指示した。

クレアとレイリスは馬舎に戻り

ルイヴィス達と合流して城に戻った。
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