次期社長と訳あり偽装恋愛
不本意な別れ

「乾杯」

その声に各自が手に持っていたグラスを合わせた。
今日は、プロジェクトの打ち上げの為に居酒屋に来ていた。
和風建築の外観で店内は広々としている。
カウンター席、テーブル席、あとは個室も完備している。
今回は個室を貸し切っている。
個室は掘りごたつになっていて、正座して座らなくていいのが助かる。

先日、“もふりん”の文房具が無事に発売された。
好調な滑り出しをしているとのことで、みんな笑顔にあふれている。
用事があって参加できない人が数人いたけど、ほぼ全員が集まった。

私の席は宮沢やデザイナーの野中さんや広報部の志保さんとかチームの中で比較的若い人たちの集まりだ。
まぁ、若いといっても二十代半ばから後半の人たちだけど。

「梨音ちゃん、しっかり飲んでる?飲み放題なんだから飲まなきゃ損だよ」

野中さんがビールを勧めてくる。
何度か顔を合わせているうちに、みんな私のことを下の名前で呼んでくれるようになった。

「ありがとうございます」

野中さんは今日の幹事ということで、常に周りに気を配って声をかけてくれている。
お酒を注いで回ったり、上司の注文を聞きに行ったりと大忙しだ。
今も私の空いていたグラスにビールを注いでくれているし。
「もう飲めません」とは言えなくて、苦笑いを浮かべグラスに口をつけた。
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