癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
「ど、どういう意味?」

「さあな」

中村が安易にやったことが、遙季や光琉に与えた影響は計り知れない。

゛あいつがあんなことをしなければ、遙季と自分は順調に愛を育んで、楽しい大学生活を過ごして,,,゛

いや、

光琉は、人生においては、そんな゛たられば゛が存在しないことは百も承知だった。

救急の現場でも、精神科の現場でも、いくらでもそんな場面は見てきた。

だからこそ、遙季のように前を向いて歩かなければ乗り越えていけないことも知っている。

「遙季の思いやりはよくわかった。でも、そこには俺の気持ちがどこにも反映されてない。置き去りにされた俺の気持ちを考えたことはあったか?」

責める光琉に言葉を返せない遙季は、シュンとなった犬みたいで可愛い。

この8年間は、なつかない犬のようにキャンキャン吠え続けていたから、新鮮でそそる。

「考えてなかった、かもしれない」

それでも、完全に認めようとしないところが遙季らしい。

「いいよ。これからは二人で何でも話し合おう。遙季が斜め上に歩き出してしまわないように」

「はい」

と素直に頷く遙季は、中学3年生の頃に戻ったようだ。

盲目的に光琉について回っていた、あの頃のように。
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