ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~

プロローグ

千葉恭子、25歳、独身。

ショートボブにナチュラルメイク、パンツルックのスタイルは、三年前、安藤晋設計事務所に就職してからひとつも変えていない。


「戻りましたー」


12月は室内外の気温差が大きい。

お客様との打ち合わせから会社に戻った私は、暖かい室内に入るなり、忙しなくマフラーを外し、コートを脱ぐ。


「またか」


気だるい声を出し、立ち上がったのは同い年の実松新。

爽やかなショートカットに、色白の肌。

アーモンド型の瞳に、すっと通った鼻筋。

180センチ超えの高身長。

まるでモデルや芸能人のような出で立ちの綺麗な顔立ちをした彼は、几帳面な性格で、脱いだコートやマフラーを椅子の背に掛ける私の行動が許せない。


「コートの端を踏むな。皺になる。って、何回同じことを言わせれば気が済むんだよ」


実松くんは苛立たしげに言うと、私の体を強引に退かし、お尻の下に敷かれているコートを取り上げた。


「ごめん。分かってるんだけど、お客様と話してて良い案が浮かんだから一刻も早く確認したかったの。今度から気をつけるから今日は見逃して」


パソコンの画面に目を向けたまま、答えると、職員用の木製のハンガーラックにコートとマフラーを掛けてくれた実松くんの手が私の頭を鷲掴みにした。


「話をする時はきちんと相手の方を見ろ」


グイッと顔の向きを変えられ、反射的に見上げる。


「ごめん。それと、いつもありがとう」


冷たい視線に晒されて、お礼と詫びのつもりで頭を軽く下げる。

その拍子に、実松くんの手が頭から離れたので、隙をつき、マウスを手に取る。
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