ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
でも完全には逃れられなかった。

実松くんの手が背後から伸びてきて、机の上に乗り、身を屈めてパソコンの画面を見てきた。


「えっと、まだなにか?」


頬がくっつくんじゃないかと思うくらいの実松くんとの距離感に困惑しつつ、横目で見ると、実松くんは体を起こし、私を見下ろし、言った。


「もう図面は完成してる。期日は明後日。それなのに今更なに手を加えようとしてんの?」

「秘密基地みたいな空間を入れたいって話になったの。秘密基地。実松くんは作ったことある?」


聞いて返事がない、ということはおそらく作ったことがないのだろう。


「憧れなかった?」

「まぁ、多少は?」


なんとも曖昧な答えに、質問を重ねる。


「山で木を組んで基地を作ったことは?段ボール箱で家の中に自分だけの空間を作ったことは?押入れに入って、自分の世界を作ったことは?ない?」

「ないな」


そう即答されてしまえばもう何も言えない。
今回のご依頼主の担当が実松くんのような経験のない設計士じゃなくて良かったと思うばかり。

というのも、施主は、ご夫婦ともに山や自宅に秘密基地を作って遊んでいたタイプの方だったから。
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