姫は王となる。
序章  はじまり





「風、気をつけてね。父様、兄様をお願い」
ここは、東国の国王が住む城の中。


「はい。行って参ります、姫様」


きらびやかなドレスを着た女性を目の前に、膝まつくのは鎧を着た男。
名前は、風(かぜ)。

「姫様はやめてって言ったでしょ?後、そんなにかしこまらないでって言ったはず」


膝まつく風に手を差し出し、立つように促す。


「そういうわけにはいきませんよ」

風はその手を取り立ち上がると、姫様よりも頭ひとつ高い身長。

「じゃあ、命令にするわ」

「ははは」

姫様が怒ったマネをしてそう言うと、風は楽しそうに笑った。



「行って参ります。花蘭様」

そして笑っていた顔を引き締め、頭を下げた。

花蘭という名は、姫様の名前。

「帰って来たらすぐに結婚式よ。ケガしないように気をつけてね」


頭ひとつ高い男を見上げ、笑顔でそう言った。


「必ず…無事に帰って来ます」


風は花蘭に向かって一礼すると、固く重い靴の音を立て背を向けて歩き出した。



「…気をつけて」

どんどんと遠ざかって行く背中を見送り、祈るように囁いた。





< 1 / 247 >

この作品をシェア

pagetop