俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「傘のお礼を兼ねて食事に誘いたいんだが?」

「ほ、本当にその必要はないとさっきも……」

「それだと俺の気がすまない。受けた恩は返す主義だ」


この人と食事?

絶対にありえない。

まさか、お礼にかこつけたナンパとか?

いや、この人にナンパの必要はないだろうし、そもそもそんな魅力が私にあるはずない。

だとしたら、からかわれているとしか思えない。


そう結論づけると、湧き上がるのは若干の腹立たしさ。


その時、彼の胸元で振動音が聞こえた。

ブーンブーンと音はやむ気配がない。

眉間に皺を寄せて副社長はスーツの胸元に手を入れ、スマートフォンを取り出す。

液晶画面を確認する表情に変化はない。


「はい」

副社長が相手に応答した瞬間、勢いよく手を振り払い、距離をとる。

「有難いお話ですがお断わりします。傘は差し上げますから!」

キッパリ否定の言葉を告げる。


これ以上この場にいたくない。

この人のペースに巻き込まれたくない。

女性が皆、自分に恋焦がれると思ったら大間違いなんだから。


一瞬目を見開いた彼が伸ばした手を、さっとかわす。

そのまま振り返らずに近くにあった階段を駆け下りた。


もう二度と出会わないようにと願いを込めて。
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