俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「……教えますから荷物を返してください」

不本意ながら連絡先を交換する羽目に陥る。

まったくうまくいかない。


「近いうちに連絡する。お前は早く嫁に来い」

ぽん、と頭を軽く撫でられる。

「い、行きません!」

「往生際が悪いな」

うろたえる私を尻目に、副社長は嬉々とした様子で車に戻っていった。


「……もう本当になんなの……」


妻?

嫁?

どうしてそんなにあっさり口にするの。

なんで運命なんて言うの。

絶対にありえない、そう思っていたのに。


この数分でほんの少しだけ、彼の印象が変わった。

祖母を大切にする姿勢。

仏頂面ばかりしているのかと思えば意外に表情が豊かで。

初めて出会ったあの日も私の飲料話を嫌がりも、馬鹿にもせずに聞いてくれた。

それに私の身体の不調をすぐに見抜いて気遣ってくれた。

抱き上げられた腕の感触が今も残っている。


そんな人はこれまでにいなかった。

胸の奥に広がる温かな想いに心がざわつく。

この気持ちの正体が今の私にはわからない。
< 52 / 221 >

この作品をシェア

pagetop